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山陽新聞『一日一題』2月2日

『私のお役目』

 

「人は誰でもお役目を授かって生れてきます」

 私が家業である神社を継いだのは4年前のことです。長男として生まれながらも親に跡を継ぐように言われたこともなく、弟が継ぐものと思っていました。神職になるまでの私は親元を離れ、東京で事業を興していました。それも順調だったため、神社とは無縁で、いま考えると恥ずかしくなるような自分勝手で、自由気ままな暮らしをしていました。

 そんな中、父に癌が見つかったとの知らせを母から受けました。幸い進行は緩やかで安心したのを覚えています。父はそのころ、平成4年に放火で全焼してしまった備前国総社宮の再建の陣頭指揮を執っていました。寄付金集めは難航し、地域の方との意見の相違もあり、相当なストレスがあったと思いますが、「200年後には重要文化財指定を目指し、日本で初めての平安時代様式の社殿を再建するのだ」と使命感と責任感に燃えていました。私は父の苦労を聞き、このままでは父の意志を知らない人が跡を継ぐことになるかもしれないと考えるようになり、東日本大震災をきっかけに一大決心して会社を部下に譲り、岡山にもどって父のサポートを始めました。

 平成27(2015)年春に念願だった社殿が完成しました。父は体調が悪く相当つらかったと思いますが、やっとの思いで完成した達成感で病気だということを忘れるくらい、元気に竣工祭を執り行いました。しかし、それを待っていたかのように体調はみるみる悪化し、宮司として、この竣工祭が最後のご奉仕になってしまいました。私はこれが父の授かったお役目だったのだと思います。そしてこれからは父の遺志を継ぎ、私のお役目を果たして参ります。

 

 ◇筆者紹介(たけべ・かずひろ)関西高校卒。ホテルなどに勤務した後、2003年から東京で食品会社を経営。11年の東日本大震災を機に帰岡し、父が宮司を務める備前国総社宮の禰宜に就き、17年から現職。デニムのお守り、パクチー奉納祭などを企画し、神社と地域を結ぶ活動に力を入れる。岡山市中区在住、45歳。 

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